始まり
「郁那、いつもの所行ってくんねー」
「えー!!また!?まぁ、いいけどさ。単位落としても知んないよ〜」
「分かってるって」
そう言って私はチャイムを無視して当たり前のように教室を出る。
“いつもの所”とは屋上のことで、“また”というのは5・6時間目はいつもいないから。
つまりは、サボりってトコ。
毎日のことなので教師は全く気にしていなくて、それはクラスの人も同じ。
“教師&クラスメイト公認のサボり”なんて良い響きだ、うん。
そうこう考えているうちに、いつのまにか屋上の扉の前。
鍵は掛かっているといえば掛かっているのだが、鍵開けが得意な私の前では、ただの扉と化す(あ、もしかして犯罪かな、これ)。
いつものように鍵を開けたつもりが、ドアノブを回すと閉まっている。
おかしいな、と思いながらもう一度鍵を開けると今度は開いた。
首を傾げながらドアを開けるとそこには予想外の先客。
まさか、とは考えていたので驚きはしなかったが。
気にすることなくいつもの席に向かう。
すると、「君もサボり?」なんて馴れ馴れしく話しかけてきた。
めんどくさかったので、テキトーに「そうだけど」と答えてその人の前を通る。
いつもみたいに座って寝ようと思ったら、また話しかけてきた。
「君、名前は?」
ああ、ウザイ。答えないでおこうか。
「普通は名乗ってから聞くもんじゃないの?」
なんとなく、聞き返してあげた。今日の私、優しいな。
「ああ、そうだな。俺は二年三組の如月海斗。君は?」
「二年二組、水無月夕」
「ふ〜ん。隣のクラスなんだ。よろしくね」
「とりあえずよろしく」
どうでもよかったんだ、今は。
後で話を聞いて、びっくりするなんて思いもよらなかったんだ、